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部下を信じて覚悟を決めた上司

人事コンサルティングをご提供する際には、顧客企業の従業員に対して、アンケートやインタビューを実施することがあります。

 

先日も、教育体系構築コンサルティングの一環で、顧客企業の従業員インタビューを実施しました。


質問項目は複数あるのですが、「人材育成の現状」についてインタビューをした際、印象に残ったエピソードをご紹介したいと思います。

 


その日は、鈴木さん(仮名)に対して、若手社員の立場から人材育成に関するご意見をお伺いしました。


そして、上司である山田さん(仮名)に対する要望をお聞きしたところ、下記のような返答があったのです。

「上司の指導育成には、とても満足していて、感謝しています。ただ、(上司の)山田は、少し業務過多になっていると思うのです。(部下である)自分に、もう少し仕事を任せて欲しい。」


次に、鈴木さんの上司である山田さんへもインタビューを実施しました。

 

私が、「ご自身の育成上の課題は何ですか」とお聞きしたところ、山田さんは、こう答えられました。

「育成時間の確保です。仕事を抱えすぎて、育成にかける時間が不足していることを問題視しています。仕事を抱えすぎてしまうのは、自分の改善すべき点です。」

 

山田さんへのインタビューを終えた後、別れ際に、私は一言だけ伝えました。
「あなたの部下である鈴木さんは、もう少し仕事を任せて欲しいと望まれていましたよ。」

 


通常、インタビュー対象者の匿名性を担保するために、誰が何を発言しかたについては、他者へ開示しません。
ただ、このときは、上司・部下、双方に同じ問題認識があって、さらに、上司の改善意欲を感じたので、少し背中を押してあげたくなったのです。

 


それから、一ヶ月ほど経過した頃、上司の山田さんと別件のお仕事でお会いする機会があり、私に下記のような報告をしてくださったのです。
「インタビューのときに教えていただいたので、鈴木に自分の仕事のいくつかを任せてみました。試行錯誤しながらも、熱心に取り組んでくれています。まだまだ、危なっかしいところもありますが、任せて良かったと思います。」
最高に嬉しい報告でした。

 


部下や後輩に仕事を任せるよりも、上司や先輩がその仕事をやったほうが、早く、正確で、質が高いのであれば、任せないことが起こりえるでしょう。

 

目の前の業務に追われ、余裕がなくなると、育成は後回しにされがちですが、部下や後輩が成長するためには、経験が必要になります。


たとえ、うまくできないと分かっていても、上司は部下に仕事の経験を積ませることが求められるため、上司にとっては、手間のかかることでしょう。


ですから、上司にとっては、部下の失敗を背負う責任と、時間をかけて育てるという覚悟が大切になるのではないでしょうか。

山田さんのご報告に、部下を信じる姿と育成への覚悟を感じました。